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セデック族の伝統織物Gaya tminunの保持者 | 張鳳英

  • 日付:2024-05-29
張鳳英

張鳳英(Seta Bakan)は1957年、台湾中部の南投県仁愛郷中原集落の生まれ。文化部(文化省)が認定した原住民(先住民)であるセデック族の伝統織物「Gaya tminun」の重要伝統工芸保存者(保持者)です。重要伝統工芸保存者は一般に「人間国宝」と呼ばれます。セデック族としては初の重要伝統工芸保存者に登録された張鳳英は、セデック族の伝統織物を継承できることを誇りに思うとし、織物の制作は母方の祖母に思いをはせる方法だとしています。

 

張鳳英の織物技術は母方の祖母から受け継いだもの。祖母はセデック族の伝統的な技法を守っており、部族の人々が認める織物の名手で、公共テレビの取材を受けたこともありました。多くのアーティストや日本人が祖母に織物を注文していたことが張鳳英の印象に残っており、祖母は一族の誉れでした。

 

伝統的なセデック族の社会では、織物工芸は女性が身に付けておくべき技能の一つとされます。織物の上手な女性は人々から賞賛されて、mqetin bale(真の女性)と呼ばれました。mqetin baleは働き者で才能と徳を備えていなければならず、それでこそ、死後にHako Utux(虹の橋)を渡って先祖の霊と会えるといわれています。

 

織物のため、張鳳英は自ら麻の一種であるラミー(苧麻)を植えて、材料から作り始めます。ラミーは綿花や合成繊維がまだ一般的ではなかった頃、衣服を製作する材料の一つでした。張鳳英によりますと、以前は集落の女性は皆、ラミーを栽培するための土地を持ち、自分で皮をむいてラミーの繊維から糸を作っていました。こうした作業は非常に骨の折れるもので、複雑でもあります。若い世代は伝統織物に触れる機会が少ないとして、張鳳英はとても残念に思っていますが、それ故に、保存と伝承の必要性をより意識するといいます。

 

張鳳英は、祖母のさまざまな技法を図形と文字で一つ一つ記録し、研究開発や創作を加えています。これは、セデック族が今まで、口頭のみで伝承してきた織物文化を初めて文字により記録したものです。また、祖母はセデック語しか理解できなかったため、張鳳英の翻訳記録がなければ、一般の人々には理解が難しかったでしょう。張鳳英は2021年、「三代織女:一個賽徳克家族的技芸与記憶」を出版。こうした消失の危機に直面する織物技法をきちんとした形で後世に残しました。