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作家 | トパス・タナピマ(Tulbus Tamapima)

  • 日付:2025-03-05
作家―トパス・タナピマ(Tulbus Tamapima)

医師であり作家でもあるトパス・タナピマは台湾中央部・南投県信義郷生まれで、ブヌン族。祖父は集落の頭目で、父はキリスト教の牧師です。トパス・タナピマは高雄医学院(現高雄医学大学)医学科の公費生に合格し、同大学で学んでいる間、大学の文学クラブ「阿米巴詩社(Amoeba Poem Club)」に参加し、文学創作の道をスタートしました。

 

最初の小説が評価されたことで、トパス・タナピマは創作を続けることを決め、原住民(先住民)意識とアイデンティティーに関する文学作品を発表しています。漢民族が大多数を占める台湾社会において、トパス・タナピマの小説は最も早く読者に広く注目された台湾原住民文学でした。トパス・タナピマは原住民集落と都市の文化の対比を題材とし、独自の作風で高く評価されています。

 

1986年、短編小説「最後的獵人(最後の猟人)」が呉濁流文学賞を受賞しました。「最後的獵人」は、異なる民族と文化の衝突に焦点を当てた物語です。作中では、あるブヌン族の猟師が経済的に追い詰められ、集落を離れて都会に出て臨時工となりますが、雇い主から理不尽な扱いを受けたことで、集落に帰ることを決め、農耕狩猟による生活をしようとします。しかし、山林の国有化政策により、ブヌン族の伝統的な猟場は徐々になくなっていき、この猟師は元の土地を失うばかりか、「狩猟」という本職すら、野蛮、乱暴な行為だと曲解され、法的制裁を受けることになります。作者はこの作品でブヌン族の猟師の境遇を描き出すことで、現代の台湾原住民全体が直面する窮地を明らかにし、原住民の狩猟権が奪われた事実を示しました。

 

1988年には、散文集「蘭嶼行医記」で頼和文学賞を受賞。本書には、トパス・タナピマが外部から派遣されてきた医師という立場から、離島の蘭嶼で見聞きしたことを書いた73作品が収録されています。具体的には、離島の乏しい医療資源、政府の欺瞞(ぎまん)的行為により放射性廃棄物貯蔵施設がこの離島に置かれたこと、現地のタオ族の素朴で楽天的な生活の様子などが書かれています。本書からは、ブヌン族の現代の医師がどのようにしてタオ族の伝統的な集落と付き合ってきたかをうかがい知ることもできます。トパス・タナピマは書いていく過程で、文学創作が原住民の生活を表現する手段の一つであり得ることを発見。執筆はトパス・タナピマの医師としてのキャリアとはまた異なる原住民に対する活動となりました。

 

執筆、医療のほか、トパス・タナピマは台湾原住民族の権利にも強い関心を寄せ、台湾がまだ戒厳令下にあった1984年12月29日、党外運動(当時の反体制派の運動)の仲間と共に「台湾原住民族権利促進会」を設立。原住民の権利獲得のために、台湾社会に大きく影響する社会運動、例えば「還我土地運動(土地を返せ運動)」や「原住民族正名運動(本来の名前を取り戻す運動)」を相い次ぎ推進しました。