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烏山頭ダム及び嘉南大シュウ

烏山頭ダム及び嘉南大シュウ

基本説明

対象地域:嘉南平原は台湾最大の平原で面積は25万ヘクタール、北は虎尾渓から南は塩水渓まで、長さ約130キロメートル、幅35キロメートル。烏山頭ダムの堤頂長は1273メートル、堤高は56メートルで、有効貯水容量は7982万立方メートルです。ダムの周囲には複雑な山稜が並んでおり、上空から見下ろすと珊瑚に見えることから珊瑚潭とも呼ばれます。


環境紹介 嘉南大シュウの建設には、烏山頭ダムのほかに、5万ヘクタールに及ぶ濁水渓以南から北港渓以北(1975年から同年設立された雲林水利会の管轄下に)のかんがいも含まれます。八田与一技師は調査の後、ダムの予定地を亀重渓(急水渓上流部の支流)から官田渓(曽文渓の支流)の上流に変更。曽文渓の別の支流(大埔渓)に簡易堰を設け、取水口(東口)、烏山嶺トンネル、西口を経由してダムに水を引き入れました。貯められた水は送水施設、導水路、閘門を経て嘉南大シュウの南・北幹線によって嘉南地域に供給、かんがいに使われています。初期に建設された施設の概略は以下の通りです。(=土へんに川)


(1) 取水口(東口)
曽文渓上流最大の支流である大埔渓に位置します。川水をせき止める堰には上、中、下の3層にそれぞれ8基の水門が設けられています。各水門はつながっており、水位や取水量によって水門の開閉が調整されます。


(2)烏山嶺トンネル
水は東口の閘門を経て烏山嶺トンネルに引き入れられます。トンネルの全長は3.1キロメートルで、馬蹄の形をしており、高さと幅はそれぞれ5.45メートル。インバートにコンクリート、壁面にはれんがが使われています。トンネルの閘門はメンテナンスやダムの水を抜く際、水の流れを遮断します。


(3) 西口
トンネルの出口から西口までは約1.5キロメートルで、烏山頭ダムに水を引き入れます。トンネル出口の1.6キロメートルの導水路は川の流路を利用して造られており、勾配はかなり急で、トンネルにも影響を与えかねません。1939年に1基目の堰と落差20メートルの立坑の建設が計画され、1947年に完成しました。この烏山頭ダム初の水・土壌保全施設は周辺の景色が美しいことから「小スイス」と称えられています。


トンネルにより引き入れられた水を止めるために、官田区烏山頭にダムが建設されることになりました。世界でも数少ない、半水締めというセミ・ハイドロリックフィル工法によって造られたロックフィルダムです。堤高は56メートルで、堤頂標高66.66メートル。堤頂長は1273メートル、堤頂幅は9メートル、堤敷幅は303メートル、積まれた土石は530万立方メートルです。谷あいの穴をふさぎ巨大な貯水池が形成されており、曽文渓最大の支流、大埔渓の水を引き入れ烏山嶺トンネルを経てダムに水をためます。取水する河川から離れた場所に造るダムの手本とされています。湛水面積は13平方キロメートル、流域面積は58平方キロメートル、その範囲は台南市の六甲、大内、官田、東山の4区にまたがっており、有効貯水容量は7982万立方メートルに達します。


(4) 放流設備
堤の南端には長さ636メートル、流入部の幅130メートル、側壁の高さ10メートル、流出部の幅18メートルのシュート型放流設備が設けられています。ダムが決壊しないよう、設計洪水位の58.18メートルに達すると、放流口から水を官田渓に出します。最大放流量は毎秒1502立方メートルです。


(5)送水施設と静水池
ダムの水は貯水塔、満水時には上部しか見えない柵の骨組みとトンネル内にある直径2.73メートル、長さ168.93メートル、162.03メートルの水圧鉄管2本を経て出されます。鉄管はそれぞれ3本に分かれ、計6本のニードルバルブが設けられています。静水池で減勢された後、導水路に引き入れられ、放出量が調整されます。


(6)カプラン水車発電機、サージタンク
静水池の左岸にはサージタンクがあります。ダムの建設初期には電力施設が普及していなかったことから、バルブの開閉に必要な電力を供給するために、日立製のカプラン水車発電機1基が送水施設内に設置され、ダムが放出する一部の水を利用し発電していましたが、その容量はわずか50キロワットでした。発電機を保護するために水頭のほか、余剰水圧を抑えられるよう、サージタンクが設置されました。この発電機はすでに引退しており、日立側は新しい発電機と引き換えに日本へ持ち帰ろうとしたものの、ダムを管理する水利組合はこれを認めず文化財として保存しています。


送水施設、静水池からの水は長さ1.6キロメートルの導水路を経て南・北幹線に送られます。導水路の末端には南・北幹線をつなぐ閘門が設置されています。

(7) 南・北幹線
南幹線は長さ10キロメートルで官田区、善化区を経て新化区まで続きます。さらに麻豆支線、善化支線、南幹支線などの支線に分かれます。台南市の中心部と南部に水を送ります。
北幹線の長さは47.9キロメートル。官田区、六甲区、柳営区、東山区、後壁区、嘉義県の水上郷、太保市、新港郷などを経て、北港渓の南岸まで続きます。その範囲には林鳳営、新営、八掌渓、朴子、東石などが含まれます。台南市の北部と嘉義県内の各郷鎮(山間部を除く)に水を送ります。


嘉南大シュウの建設当初、流れ込み式の濁幹線と。調整式の烏山頭ダム北幹線の共同運用が計画されました。そのために北幹線の終点には暗渠が築かれ、北港渓と濁幹線をつなげています。


(8)かんがい、排水システム
かんがいは幹線、支線、中小の水路により行われたほか、降雨後の地表や地下の水は川のほか、大中小の排水路によって集められ、排出されます。かんがいと排水路のネットワークは域内に分布しています。嘉南大シュウの完成時、大規模な排水路は計1056キロメートル余りで、中小規模のものは合わせて約6000キロメートル余りでした。塩水渓排水などの排水システムの流域面積は1万ヘクタール以上のものが多く、嘉南地域の田、都市、鉱業の排水に大きく貢献し、同地域の生活環境、生態系のバランスを向上させ、人々の生命、財産の安全も確保されました。


(9) 防水堤と潮止め堤
嘉南大シュウの完成時、台湾は川の法線が定まっておらず、堤防も造られていないなど、水利開発はまだ全面的に行われていませんでした。川べりには、氾濫を軽減するための防水堤が計226キロメートル建設されました。この堤防は多くが川堤に取って代わられる一方、一部は二線堤として残されています。また、沿岸部では海水の浸入を防ぎ、耕地を塩害から守るために、自動水門付きの潮止め堤が建造されました。全長約104キロメートル。現在は防潮堤がその役割を果たしています。


(10) かんがい地域
烏山頭ダムと2大かんがい地域−烏山頭ダムかんがい区と濁幹線かんがい区。前者は台南市と嘉義県・市を含みます。かんがい面積は約8万3000ヘクタール。後者は雲林県を含み、かんがい面積は約4万3000ヘクタール。このほか、川や池から水を取り入れる特別かんがい区の面積は約2万6000ヘクタール。すべてを合わせたかんがい面積は15万2000ヘクタールです。


(a) かんがいの実施
1930年の嘉南大シュウの完成直後に行われたかんがいは、水利組合(現・水利会)により、水が引かれたほか、均等に水が配分されるよう、田の間の水路管理や配水の時期・順序、水量などについて緻密に管理されました。また、農民が組織した実行協会(現・水利グループ)では、用水管理の訓練が行われたり約束が結ばれました。


(b)経済効果
関係者全員の努力により、干ばつや豪雨による被害を受けていた畑や、沿岸部の荒れ野、養殖場は改善されつつあり、3年の間に良田或いはサトウキビ畑へと変わり、収穫量は大きく増加しました。完成前に比べて1ヘクタール当たりの土地の収益は90.47元(1930年以前)から742.30元(1930年以降)へと8倍余りに、土地価格も313元から5倍以上の1600元に上がりました。耕地面積は稲作が1万3160ヘクタールから4万1828ヘクタールに増え、収穫量は6.4倍になりました。サトウキビ畑3万1486ヘクタールが4万5321ヘクタールに拡大、収穫量は3.4倍となりました。一方、雑穀の作付面積は8万9689ヘクタールから4万65ヘクタールに減りましたが、土地の改良により収穫量は3割減にとどまりました。また、1万3400ヘクタールに及ぶ不毛の地も耕地になりました。


選出理由

1930年に完成した鳥山頭ダム及び嘉南大シュウは、まだ水利技術が成熟していない状況下に、当時斬新だったセミ・ハイドロリックフィル工法により建設されたダムで、土砂が堆積しにくいほか、生態系や環境への影響もゼロに近く、世界の土木業界ではほとんど前例がありませんでした。三年輪作給水法は水利工事の傑作で、かんがいの水を利用できる農民の数を3倍に増加させました。世界遺産登録基準第1項に合致しています。
鳥山頭ダム及び嘉南大シュウは、1920年代の八田与一氏の水利工事計画、技術を今に残しているほか、珊瑚潭の素晴らしい景色や関連の水利施設はすべて貴重な時代の風景であり、世界遺産登録基準第4項に合致しています。