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日本へ渡った夢 | 王文志

  • 日付:2020-07-14
日本へ渡った夢 | 王文志

王文志(ワン・ウェンチー)は国際的にも有名なインスタレーション作家です。その作品は、人と自然の関係を長く探究したもので、意識せず人と人を結びつけるものでもあります。竹を使った建築というその創作スタイルで、禅の心と空間という二つの概念を表現しています。


王文志は1959年、嘉義県梅山郷の生まれ。幼い頃は広がる野山の林と竹が友達でした。父は石垣職人で、王文志に、「誰が何と言おうと、やるなら、心を決めなさい。中途半端はいけないよ」と言っていました。この言葉は王文志の心に深く刻まれ、大きな影響を与えます。

 

小さい頃から絵が得意だった王文志は、芸術家になりたいと夢見ていましたが、「芸術では食べていけない」という一家の年長者の伝統的な考えにより、高級職業学校(技術系高校)で化学工業を学びます。卒業後は職をいくつか転々としますが、最終的には、父の言葉を思い出し、芸術の道に進むことを決めます。兵役を終えてから、何度も美術学科を受験して不合格となりますが諦めず、27歳になって、文化大学美術学科に入学を果たします。


1988年の大学4年生の時、台北市立美術館の前に展示した、大きな木に斧を組み込んだ「自然的控訴」と題する作品は、人類の自然に対する残虐さを表現したもので、注目を集めました。卒業後は、芸術の都、フランス・パリに遊学し、西洋の美的要素を吸収。しかし、自分に迷いが生じていることに気付き、創作の空白期間に直面します。そこで王文志は根本の探究を始め、生まれ育った嘉義の山林に芸術のインスピレーションと糧を求めました。


故郷とツォウ族の集落とが近かったため、王文志は原住民(先住民)の手編み技術を見て、編織と人類の原始的な生活との関係に感じ入りました。そして、編み方を基礎から学び、竹を素材として大型建築を編み上げることを決めます。


1997年、王文志は嘉義で、杉の木を組み上げた大型インスタレーション作品「大衣櫃」で、嘉義の人々の生活を表現。その後、竹を素材とした初の大型インスタレーション作品「九九連環」を編み上げ、空間と人の関わりに改めてたどり着きます。


2000年に台北市立美術館で展示した「観音」は、竹で鳥の巣状に編んだものを木の葉で覆い、吊るしたもので、ちょうど大人が頭を入れてみることができる大きさです。また、2001年にベネチア・ビエンナーレで展示された作品「方外」は、木でつくられた大きな桶。王文志が子どもの頃、神木の中に住みたいと思ったことをかなえたもので、海外でも好評を得ました。

 

王文志は2010年から4回連続で瀬戸内国際芸術祭に招待を受けて参加。最初の作品は、瀬戸内海・小豆島で創作した「小豆島の家」で、現地の「中山地区」「肥土山地区」との交流が続いています。


王文志の作品には地元意識が色濃く映し出されています。2019台湾ランタンフェスティバルのメインランタンの一つ「海之女神」は高さ15メートル、カキの殻35万個をつなげてつくられたもので、この地にたどり着いて根を張ることを表現。遠くから見ると、風にたなびく服をまとう母のように見え、多くの人が感動の涙を流しました。


人と自然はいかにして共存共栄するか。これは王文志が一貫して創作で重視していることです。王文志の大型インスタレーション作品は、造形と空間づくりの二役を兼ね備えており、没入型のテーマ空間が、観客の長く眠っていた心と体を呼び覚まし、自然との対話に導きます。


王文志は次のように話しています。「私の作品には重要なコンセプトがあります。それは、この忙しい時代に、みんなのために桃源郷を造りたいということ。温かくやさしい空間を造り、やさしい気持ちで入ってもらい、心の故郷に立ち止まってもらえるようにしたいのです」