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作家、呉明益

  • 日付:2019-02-01
作家、呉明益

呉明益は、現代台湾の中心的な作家の一人です。アーティストや作家、学術、環境活動家など、分野を超えて活躍しています。呉明益の創作は、小説とエッセーが中心。長編小説『複眼人』は、十数カ国で出版されており、海外の大手文学出版社が台湾の小説の版権を取得する先例となりました。また、長編小説『単車失竊記(The Stolen Bicycle)』は2018年、台湾の作家としては初めて、国際的な文学賞であるブッカー国際賞にノミネートされました。この作品は、英国、米国、フランス、チェコ、トルコ、日本、韓国、インドネシアなど多くの国でも出版されています。

 

呉明益は1971年6月20日、台湾北部の桃園生まれ。輔仁大学マスコミュニケーション学科を卒業し、国立中央大学中国文学科で博士号を取得。現在は、国立東華大学華文文学科教授、生態関懐者協会常務理事、黒潮海洋文教基金会董事(理事)を務めています。

 

呉明益は1990年代初頭から創作を開始。その作品は近年、広く注目を集めています。当初の作品は、郷土文学のスタイルを帯びた小説でしたが、ネーチャーライティングでブレークスルー。『迷蝶誌』や『蝶道』、『家離水辺那麼近』、『浮光』といったエッセー集は、現代の環境意識に呼応する作品というだけでなく、作品からあふれる強烈な知性と実証精神は、まさしく、読者の視界を広げるものでしょう。

 

呉明益は、こうした特徴を小説に持ち込むと同時に、ファンタジーの要素を融合することで、独自のスタイルを開拓しています。『睡眠的航線』や『複眼人』、『天橋上的魔術師(歩道橋の魔術師)』といった作品が好例です。呉明益の作品が今までに受けた主な賞には、フランスの文学賞「PRIX DU LIVRE INSULAIRE」小説部門、都市ガイドサイト「タイムアウト北京」が選ぶ「The best Chinese fiction books of the last century」、香港の雑誌『亜洲週刊』の「年間十大中国語小説」、台北国際ブックフェア大賞、台湾の主要紙『聯合報』の小説大賞があります。

 

『天橋上的魔術師』は、登場人物が育った台北の中華商場を背景とした物語で、9人の子どもそれぞれの偶然の出来事を描写。一見、何の関連もなさそうなそれぞれの話に、中華商場の歩道橋と、その歩道橋で子どもたちにマジックを披露する「魔術師」が絡むという共通点があるストーリーです。この短編小説集が語るのは、80年代の中華商場を背景とした物語だけではなく、それぞれのストーリーの人物が皆、過去の記憶の中に、現実に対する救いを求めているということです。

 

『単車失竊記』では、1台の自転車の伝説を通して、台湾の日常生活における近代化の歴史を描き出し、さらには、植民地の歴史、戦争の傷跡、そして、その中に深く沈む人と動植物の変化を描いています。台北から埔里、岡山へ、マレー半島からビルマのジャングルへ。自転車の持ち主の旅に伴って、台湾の歴史が私たちの目の前に一場面、一場面繰り広げられていきます。

 

呉明益は、『単車失竊記』の中で、日本語や閩南語など、多くの言語を使用しています。これについて、「幼い頃から、多言語の世界で生活してきたので、小説を書く際も、台湾の多言語での生活環境を表現したいと思っている」と述べています。

 

呉明益はまた、現代小説家は博物学者であるべきだと考えています。それは、小説家はもはや、自分の内的世界を書くのではないため。科学者の内的世界を書くなら、小説家は推測だけに頼るのではなく、科学者の学んだことを理解して初めて、科学者の思考法で考えることができるためです。呉明益は、「学ぶことができるため」小説を書くのが好きだといいます。そして、新たなものにチャレンジしていくのです。