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小説家 | 陳耀昌

  • 日付:2024-03-25
小説家―陳耀昌

陳耀昌は1949年、台湾南部の台南に生まれました。両親の影響で幼い頃から読書好きで、台南第一高校を卒業後、台湾大学医学部医学科に進学。米シカゴのRush-Presbyterian-St. Luke’s Medical Centerで血液学の研究員を務めた経験もあります。帰国後は、台湾大学医学部附属病院で血液・腫瘍内科の医師を30年務め、その間、台湾における骨髄移植のパイオニア、また、幹細胞医学のリーダーとなり、「法医師法」成立を推進しました。

 

専門分野で研さんを積むと同時に、陳耀昌は社会運動にも積極的に参加し、人権を重視してきました。国民大会(国会)が廃止される前は、民進党の不分区代表(比例代表)となったことがあるほか、「紅党」を結成し、党主席(党首)に就いたこともあります。また、「衛生署ハンセン病患者人権保障および推進チーム」の招集人を務め、ハンセン病患者の権利保護に力を注ぎました。

 

2009年、60歳だった陳耀昌は国際会議出席のために韓国を訪れた際、宿泊先の便箋に小説の構想を書きつけました。そのときからインスピレーションは止まらず、現在に至るまで書き続けています。自身の一族の歴史を探ろうと書いた「フォルモサに吹く風(原題:福爾摩沙三族記)」は、台湾の原住民(先住民)シラヤ族、オランダ人、漢人の3者それぞれの視点から、オランダ統治時代の各民族の関わりや交わり合いの物語を描き出しています。この作品は文化部(文化省)の2012年台湾文学賞にノミネートされました。

 

台湾歴史小説3部作は陳耀昌を語る上で取り上げないわけにはいかない作品です。「フォルモサに咲く花(原題:傀儡花)」は1867年に起こったローバー号事件が題材。米国船が台湾の南で難破した際、海岸に漂着した船員が誤って台湾の原住民の領地に入り込み、侵入者だと誤解した原住民らに首を狩られます。これを受けて米国は、アモイの米国領事であるチャールズ・ルジャンドル(Charles Le Gendre)を調査に派遣。戦争になるかとういうときに、パイワン族の頭目であるCuqicuq Garuljigulj(中国語表記は卓杞篤)が、知恵をもって争いを収めた事件です。陳耀昌は小説で、原住民、漢人、西洋人のそれぞれの視点を描くことに力を注ぎ、この作品は2016年に台湾文学賞図書類長編小説金典賞を受賞しました。これに続く「フォルモサの涙 獅頭社戦役(原題:獅頭花)」と「苦楝花Bangas」は1875年に起きた大亀文(Tjuaquvuquvulj)の原住民と清朝の淮軍が戦った獅頭社戦役を描いた物語。「フォルモサの涙」は2017年、「新台湾和平基金会」の台湾歴史小説賞を受賞しています。

 

陳耀昌は「歴史の小説化」というスタイルで小説を執筆しており、歴史的な内容については全て、厳格な考証と現地調査を経ています。また、歴史小説を書くのは新たな台湾文学史の価値観を作り上げるためだと語り、台湾の歴史観が一つの価値観を中心とするものから、多元的に広がっていくことを望み、民族間の調和が追求されることを期待しているといいます。