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タイヤル族の「文面」国宝 | 柯菊蘭

  • 日付:2019-12-10
タイヤル族の「文面」国宝 | 柯菊蘭

台湾全土でただ一人となっていたタイヤル族の「文面」国宝、柯菊蘭さんが今年9月14日、97歳で亡くなりました。柯さんは生前、自分が世を去ればタイヤル族には文面の人がいなくなるとして、文字による記録を残し、「これはタイヤル文化の一部だ」ということを忘れてはならない、と部族の人たちに繰り返し伝えていました。

顔に入れ墨を入れる「文面」は、タイヤル族独特の風習で、他地域の原住民(先住民)の文化とは異なり、伝統的な信仰や、通過儀礼としての意味があります。文面は、部落の貞節や、成年の印、勇敢勤勉の証しであり、個人の能力と技芸を示し、部族を識別する記号としての役割もあります。

タイヤル族の女性の文面は、機織りなどの能力があること、結婚の「資格」があることを示すものですが、この伝統文化は日本統治時代に禁止され、徐々に途絶えてしまいした。また、時の流れに伴い、文面の高齢者も世を去っていきました。

1923年生まれの柯菊蘭さんは、天狗部落出身で、母方の祖父が部落の頭目でした。当時、日本政府が文面を禁止する中、伝統の文面を固く守ろうと、柯さんが8歳ごろの時、彫師により、ひそかに額と頬の模様を施してもらいました。その後、彫師が道具を没収され、2度目の入れ墨ができなかったため、模様の色は比較的薄めです。柯さんは、文面が部族のシンボルであり、文面があるからこそ、虹の橋を渡り、先祖と会うことができると深く信じていました。

柯菊蘭さんは、苗栗県にただ一人残っていたタイヤル族の文面を施した人であり、美しい歌声を持つ民謡の伝承者でもありました。以前はよく、タイヤル民謡の即興作詞による歌を披露しており、生前は、文面文化に関する文字や映像による記録を多く残しました。柯さんが亡くなったことで、台湾の原住民で文面の人は、花蓮県に住むセデック族の林智妹さんのみとなりました。苗栗県、花蓮県の県政府は、「文面伝統」を無形文化資産に登録しています。


備考:
タイヤル族の伝統的な部落の文化では、心身強健で、首狩り経験のある男子と、機織りと畑仕事に習熟し、初潮を迎えた女子のみが文面を施せるとされています。文面の洗礼を経ることで、男女とも結婚の資格を得て、部落の生命力が続いていくとされています。また、文面は、タイヤル族が死後に、あの世の先祖と通じるための印とされています。残念なことに、この「文面」という伝統習俗は、日本統治時代の当局が禁止命令を出したことで、姿を消すことになりました。