高雄市の旧地名である「打狗」は、先住民が使っていた地名の発音に、閩南語の似た発音の漢字を当てたものです。後に、「打狗」の発音に近い日本語の「高雄」という漢字が用いられるようになりました。高雄市は17世紀末には、対外的な通商窓口でしたが、大きな規模には発展しませんでした。日本統治時代になってから、東南アジア進出に向けて、高雄は重工業の港湾都市として整備され、高雄港が近代的な港に改修されたことで、「港都」と呼ばれるようになりました。
高雄流行音楽センター(高雄ミュージックセンター)は、高雄港の11~15号埠頭(ふとう)(真愛埠頭と光栄埠頭、苓雅寮操車場)に位置し、敷地面積は約11.89ヘクタール。2021年3月に正式オープンしました。高雄流行音楽センターは2009年以降、行政院(内閣)が策定した大型インフラ整備事業である新十大建設計画の中の「国際芸術および流行音楽センター」と、大型投資計画「愛台12項建設」に含まれる事業を経て、文化部(文化省)が高雄市政府に計画、設計、建設を委託したものです。高雄市はまず、国際コンペティションを実施し、147作品の中から、スペインのManuel Alvarez Monteserin Lahozの作品を選定。2011年に契約を締結しました。
高雄流行音楽センターのビジュアルアイデンティティーは、台湾版グラミー賞ともいわれる「金曲奨」のビジュアル統括を4度手掛けたデザインエージェンシー「JL DESIGN」に依頼。高雄の風景である「海洋」と音楽が融合され、五線譜上のニューウェーブというビジュアルが生まれました。高雄流行音楽センターは、「真愛埠頭」と「光栄埠頭」にある4エリアの建築物、「鯨魚堤岸(ホエールプロムナード)」「珊瑚礁群(コーラルゾーン)」「海豚歩道(ドルフィンウォークウェイ)」、「高低塔(ウェーブタワー)」の景観が一体となったものです。
「鯨魚堤岸」は「光栄埠頭」にあり、正式名称は高雄港13号埠頭といいます。かつての港の重要業務は、物資と任務に就く兵士を離島の金門と馬祖の港に送り届けることでしたが、2005年にこの役目を終え、この場所には、クジラの群れをイメージした6棟の建物が建設されました。この建物はそれぞれが、独立したイベントスペースとなっています。
「真愛埠頭」と「光栄埠頭」の間を結んでいるのが、「珊瑚礁群」と「海豚歩道」です。「珊瑚礁群」は複合型の商業施設となっており、サンゴ礁をイメージした形状の2階建ての建物で、総面積は1642坪。体験型、展示、複合型に対応した商業スペースです。「海豚歩道」は独立した商業スペースで、海面からジャンプするイルカをイメージしてデザインされています。全長735メートルの天空歩道が、高低塔、珊瑚礁群、鯨魚堤岸というエリア全体を結んでいます。
高雄流行音楽センターで最も象徴的なのが、「高低塔」と「海音館」、「海風広場」です。「高低塔」は、波のうねりをイメージした目を引く前衛的なデザインの建物となっています。コンサートなどに利用されるのは「海音館」と「海風広場」。「海音館」は4000~6000人を収容できる屋内ホールで、台湾で不足している中型ホールの新たな選択肢となります。また、「海風広場」は8000~1万人を収容できる屋外スペース。南台湾における音楽イベントの中心的会場となること、また、国内の音楽人材育成と産業の支援連携が期待されています。高雄流行音楽センターは、音楽イベントだけでなく、港の素晴らしい景色とのコラボで、新たな観光スポットにもなっています。
2020年の大みそか、高雄で「跨百光年」と題した年越しイベントが開催されました。8つの演出、3つのステージで、陸、海、空の3方向から、それぞれの港都―高雄の姿を描き出し、11日間にわたるイベントで、高雄の夜を彩りました。ほぼ完成していた高雄流行音楽センターの前衛的な建物にも、ライトが当てられ、きらびやかで美しい演出がなされました。次に高雄を訪れる際には、高雄流行音楽センターにも足を運び、港都の新たな魅力を味わってみてはいかがでしょう。