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リレーショナル・アートの芸術家 | 李明維

  • 日付:2020-09-01
リレーショナル・アートの芸術家 | 李明維

李明維(リー・ミンウェイ)は、独特の関係性の美学(relational aesthetics)で国際的にも有名な台湾の現代芸術家です。日常をシチュエーションとした作品を多く創作しており、今までの作品は、思想により結論を導き出す表現形式と観客参加型の仕掛けを融合して、芸術コンセプトを伝え、人間関係と社会的文脈の相互作用とその様子を探究するものです。


李明維は1964年、台湾中部の南投県埔里の生まれ。母方の祖母と父、いとこが医師だったため、自身も近い分野の学科に進学し、米国の大学で生物学を学びました。しかし卒業後、それが自身のやりたいことではないと分かり、カリフォルニア美術工芸大学(現・カリフォルニア美術大学)に学びます。


李明維はこの時期、師となるマーク・トンプソン(Mark Thompson)に出会い、大きな転換期を迎えます。マーク・トンプソンから学んだのは、コンセプチュアル・アートの技巧だけでなく、「芸術は境界線を持たず、かつまた、生活と密接に結び付いている」という理論でした。


1995年、李明維はイェール大学大学院美術学部に進み彫刻を専攻。ここでの最初の年、李明維は、純粋に、人と対話したい、この都市を知りたいという希望から、アーティストがゲストと一対一で食事をしながら話をする「晩餐計画(プロジェクト・ともに食す)」という作品を創作。大きな反響を呼び、1997年には、ホイットニー美術館から、「晩餐計画」での個展開催オファーを受けます。


「水仙的一百天(100 Days with Lily)」は、李明維が、他界した祖母を偲ぶため創作した作品。実際に水仙を育て、その水仙が芽を出し、花を咲かせ、枯れるまでをともに過ごした過程で、祖母の死を振り返り、見つめ、命の終わりと始まりの本質を理解することを表現しています。この作品以降、李明維は、独特のスタイルと表現方法を確立しました。


こうしたスタイルは、視覚を中心とした芸術の枠を超えて、プロセスの経験と個人的理解に焦点を当てるものです。李明維は、ここからさらに、「魚雁計画(プロジェクト・手紙をつづる)」「睡寝計画(プロジェクト・ともに眠る)」「旅駅計画(The Tourist Project)」といった、手紙や古いもの、芸術家とのやり取りにより、思い出をシェアするスタイルを発展させてきました。「晩餐計画」「睡寝計画」のコアコンセプトは、見知らぬ人と交流し、プライベートな時を過ごし、共有することです。


「移動的花園(ひろがる花園)」という作品は、花がたくさん飾られたテーブルがあり、観客は、そこから一輪を持って帰ることができますが、美術館を後にしてから、その一輪を見知らぬ人にプレゼントし、贈る心を伝えていくというものです。


李明維の作品は全て「人との関係性」に関わるもので、観照する、対話する、贈る、書く、食べるということを通して、世界とつながっていくものです。その作品には、人を癒すある種の魔力が宿っており、これが、李明維が、国際的に脚光を浴びる数少ない台湾の芸術家である理由です。