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小説家 | 李琴峰

  • 日付:2022-07-18
小説家 | 李琴峰

小説家の李琴峰(りことみ)は1989年12月26日、台湾中部の彰化生まれ。幼い頃から教育のプレッシャーを強く受ける環境で育ったため、成績は上位でしたが、息苦しさも感じており、自由への憧れを強く持っていました。15歳から日本語を独学し、また、中国語で小説も書き始めました。


進学した台湾大学では、中国文学科と日本語文学科の複数専攻。2013年に早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程に進み、卒業後は日本企業に就職して、中国語と日本語の翻訳に従事しました。また、余暇には小説のほか、書評や論説、追悼文、エッセーなども執筆しました。


李琴峰は日本の文壇でのペンネーム。「李」は中国の古典文学で詩の名人である李姓の三人を挙げた「詞中三李」から、「琴」は自身がとても好きな字であり、「峰」は近代中国の学者である王国維の詞「浣渓沙」に出てくる字からとっています。


2017年、李琴峰は初めて日本語で書いた小説「独り舞」で第60回群像新人文学賞優秀作を受賞。この作品の大部分は自身の経験を素材にしたもので、若い頃の苦しみを文字で反すうするもの。日本語で小説を書くことについて李琴峰は自ら、これはずうずうしくも、「言語の可能性を押し広げる」試みだと述べており、台湾から逃避した後、日本に温かく受け止められたように感じたといいます。


李琴峰は、非母語話者のことを「言語世界の難民」と言っています。日本の文学界で初めて賞を取ったことについては、(「日本国籍」ではなく)「日本語籍」を手に入れたようだとし、日本語で執筆し続ける勇気をもらったと述べています。この後、日中二言語作家として、創作や翻訳、通訳といった活動を続けています。


2019年、李琴峰は取材のため沖縄と与那国島を訪れました。沖縄のビルやものは東京を思わせましたが、沖縄の自然生態系は台湾にいるような錯覚を起こさせました。また、琉球王国と与那国島の背景と悲しい歴史が、後の小説「彼岸花が咲く島」のもとになりました。同年、小説「五つ数えれば三日月が」が第161回芥川龍之介賞、第41回野間文芸新人賞の候補に選ばれています。この小説は、台湾人レズビアンのその友人である日本人女性に対する繊細な感情を描写。二人の平成最後の夏の日の再会と、成就できない恋を描いています。


2021年には小説「ポラリスが降り注ぐ夜」で第71回芸術選奨新人賞を受賞。同年、小説「彼岸花が咲く島」が第34回三島由紀夫賞候補となり、第165回芥川龍之介賞を受賞しました。日本語を母語としない作家としては2人目の同賞受賞でした。この作品は、言語や種族、文化、歴史といった要素が盛り込まれた作品で、女性だけが学べる言語があり、女性が全てのことを取り仕切っているある島が舞台。物語中で使われる特殊な言語は、李琴峰が中国語、日本語、台湾語、琉球語を融合して作り出した新たな言葉で、選考委員の一人である松浦寿輝東京大学名誉教授(第123回芥川龍之介賞受賞者)は、この作品は日本語や日本文学の未来を新しくしていくと絶賛しています。


李琴峰は受賞後、文学は確かに自分との対話ですが、受賞しなければ読者が付かないとして、受賞により多くの読者に届くことが本当にうれしいと述べています。また、「自分が受賞するのは当然」とも率直に語っています。それは、自分の作品が他の人より優れているというわけではなく、「作品に全力を注ぎ、書き上げることに努め、書きたいことを書き切れたから」だと述べています。