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作曲家、リン・チャン

  • 日付:2018-04-23
作曲家、リン・チャン

リン・チャン(林強)は本名を林志峰といい、台湾の著名な歌手であり、映画俳優、DJ、作曲家、映画音楽プロデューサーとしても活躍しています。リン・チャンと映画監督のホウ・シャオシェン(侯孝賢)は長年にわたる協力関係にあり、リンは、ホウ監督の作品に出演したほか、ホウ監督作品のテーマ曲を多く作っています。また、台湾を代表する映画賞である「金馬奨」、台湾版グラミー賞ともいわれる「金曲奨」で、最佳原創電影歌曲(最優秀オリジナル映画歌曲賞)や最佳原創電影音楽(最優秀オリジナル映画音楽賞)、演奏類最佳専輯製作人(器楽曲部門最優秀アルバムプロデューサー賞)といった複数の受賞経験があります。

 

 1964年彰化生まれのリン・チャンは、1990年に歌手としてデビュー。台湾語の歌「向前走」で有名になりました。ロック調のこの曲は、長らく、悲しい雰囲気のものが多かった台湾語の歌の概念を打ち破り、「新台湾語歌運動」の代表作の一つとされています。リンは、あるアルバムのミュージックビデオ撮影で、台湾の伝統芸能である布袋戯(ポテヒ)の国宝的名手であるリー・ティエンルー(李天禄)を招いて出演してもらった際、現場を訪れていたホウ・シャオシェン監督と知り合います。ホウ監督はこの時、リンに、映画「戯夢人生」のリーの青年時代の役での出演をオファー。これがリンと映画との縁の始まりでした。

 

 映画出演のほか、リン・チャンは自らの情熱と、新たな青年像で、2枚目のアルバム「春風少年兄」をリリース。さらに3枚目のアルバム「娯楽世界」では、引き続き実験的に電子音楽のテイストを取り入れています。2000年以降、リンはスタジオを設立し、映画音楽とドキュメンタリーの仕事に専念します。映画音楽では、台湾のホウ・シャオシェン監督、中国大陸のジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督、海外の新進気鋭の優秀な若手監督と多くコラボしています。

 

 ホウ・シャオシェン監督の「憂鬱な楽園(原題:南国再見、南国)」は、リン・チャンが初めて映画音楽の担当として参加した映画です。リンの初挑戦は、驚きをもって評価され、「憂鬱な~」は、第33回金馬奨の最優秀オリジナル映画歌曲賞を獲得しました。リンはその後、ホウ監督の「ミレニアム・マンボ(原題:千禧曼波)」などの映画に参加し、同賞を4回獲得しています。

 

 リン・チャンが、歌手から突然裏方に転身し、映画音楽に携わるようになって十数年。リンは以前、歌うことはもうないだろうと述べたことがあります。それは、リンが純粋に音楽を製作する環境が好きだから、さらには、最も好きなのは電子音楽だからという理由のためです。映画音楽を手掛ける際、必ずできるとは限らないものの、監督の反対がなければ、リンは、映画音楽に密かに電子音楽を盛り込みます。例えば、ホウ・シャオシェン監督の「黒衣の刺客(原題:刺客聶隠娘」では、唐代の古楽器を多用しましたが、バックには多くの電子音楽が使われています。また、ミャンマー出身華人のミディ・ジー(趙徳胤)監督のドキュメンタリー「翡翠之城」でも、ミャンマーの伝統楽器を使った音楽のベースに電子音楽が使われています。

 

 2017年、リン・チャンは台北駐日経済文化代表処台湾文化センターが開催したトークイベント「林強が語る、サウンドトラックの魅力」に登壇。日本の皆さんに、創作してきた作品や経験を紹介しました。また、多くの映画を通して、日本の皆さんに映画音楽の美を知っていただきました。大多数の映画音楽に、伝統的で壮大な交響曲、あるいは、現代に好まれるロマンチックな軽音楽が多く使われる中、リンの電子音楽テイストは、映画に思いかけない叙事的な効果をもたらしています。前衛的なスタイルのリンは、自らの人生哲学を貫いています。

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