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棲蘭山ヒノキ林

棲蘭山ヒノキ林

基本説明

位置:地図上の正確な位置としては、台湾北部の雪山山脈にあります。喀拉業山の主稜線から北東に伸び、馬悩山、眉有岩山、唐穂山、棲蘭山を経て拳頭母山に至る雪山山脈の主稜線両側に広がるエリアが全て含まれます。


対象地域:棲蘭山ヒノキ林は、宜蘭県、新竹県、桃園市、新北市の2県2市にまたがっており、総面積は約45,000ヘクタール。そこから海抜100メートル下方、または、河谷の下流500メートルを緩衝地域としており、その面積は約10,000ヘクタールになります。


環境紹介

エリアとしては、雪山山脈の北部、大ハ尖山と桃山、眉有岩山(2,328M)、唐穂山(2,090M)、棲蘭山(1,918M)、拳頭母山(1,551M)、達観山といった山に囲まれた範囲で、平均標高は約2,000メートル。蘭陽渓水系と大漢渓水系の源流で、この水源は、台湾北部の生活を維持するための中枢となっています。(ハ=土に覇)


地球上に存在するヒノキは7種類しかなく、分布域は、北アメリカの東西両海岸と、日本、台湾です。台湾には、タイワンベニヒノキ、タイワンヒノキの2種類があります。現在の世界のヒノキの分布環境を観察すると、裸子植物であるヒノキ属は、針葉樹林群系では、分布範囲や種類にかかわらず、全て希少なものとなっています。ヒノキの生育環境をみてみると、現在、世界のヒノキの主要なグループは全て、年中湿潤で霧がかった山域に分布しており、北米、東アジア型のヒノキは針葉樹林に生息、台湾のヒノキ林のみが亜熱帯地域にあります。


このエリアには台湾全土でもここだけに存在する原始の巨大ヒノキの純林があり、世界の古地磁気史に残る珍しい林相です。それだけではなく、その独特の生態系と遺伝子プールは、地球上の生物が氷河期に大移動した謎を解くカギであり、また、自然遷移と復元の研究の重要地でもあります。


台湾のヒノキ属植物は、中高海抜の山地で生育し、この山地は、峰が高く、谷は深く、雨霧が十分な、孤島のように閉鎖した生態環境を形成しています。ヒノキ林帯に生育する希少な裸子植物には、チュウゴクイチイやタイワンスギ、ランダイスギ、タイワンイヌガヤなどがあり、これらはすべて、第三紀北極植物の遺存種で、長期間孤立した環境で変化したことにより、台湾固有の種類となりました。これら固有の針葉樹類の希少裸子植物群は、数千万年から1億年の長い時間を経て変化したもので、「生きた化石」ともいえます。


棲蘭のヒノキ原始林区には、希少な針葉樹が生育しているだけでなく、タイワンツキノワグマやタイワンカモシカ、キョンといった大型の有蹄類の動物が活動しており、ここはまさに、北部台湾の希少野生生物の楽園となっています。


このエリアに生息する野生動物は、哺乳類が31種、鳥類が100種、爬虫類が42種、両生類が18種、昆虫が417種。このうち、希少種や保護種に指定されているものはかなり多く、哺乳類では固有種が10種、保護指定が8種、鳥類は固有種が13種、保護指定が40種、つまり、この地域で記録されている鳥類の40%が保護指定されていることになります。両生類・爬虫類では、固有種が13種、保護指定が21種。このうち、ヘビ類が32種にも上ります。これは、台湾の陸生ヘビ類全種の7割近くに当たり、ここが台湾で最も多様なヘビ類が生息している地域の一つであることを示しています。蝶やそのほかの昆虫では、固有種が94種、保護指定が10種。台湾全土の保護指定されている昆虫18種のうち、半数以上がこの地域で発見されています。


調査によると、このエリア内の維管束植物は100種と、非常に豊かです。雲霧林帯を主要な生育環境とする種のうち、台湾の固有種は38.5%を占めており、台湾の維管束植物に占める固有種の割合(27%)に比べて非常に高く、雲霧林帯種の特殊性が分かります。また、62種の希少植物のうち、タイワンゴヨウツツジと鴛鴦湖細辛(Asarum crassusepalum S. F. Huang, T. H. Hsieh & T. C. Huangは、このエリア固有の植物です。また、このエリアの森林の植生は主に、ヒノキ林、タイワンツガ林、マツ林の3種で、このうち、ヒノキ林が中心的な種類で、中でもタイワンヒノキの林は、世界でも唯一残っている広い天然純林です。


棲蘭山ヒノキ林とアメリカのレッドウッド国立・州立公園を比較してみます。現存する世界のヒノキ属植物は、暖帯から温帯にかけての針葉樹林に生育しており、この林帯は台湾では海抜1,600-2,400メートルの山地に当たります。このエリアは、台湾全土でも雨量が最も豊富で、比較的温暖で湿潤なため、植物群落の形態が非常に多様になり、種の多様性からみると、あらゆる針葉樹林地で最も閉鎖的で安定したものとなっています。このエリアでは、長期間孤立した環境での変化により、台湾固有の針葉樹の希少な裸子植物類が、数千万年から1億年の長い時間を経て、「生きた化石」となりました。


アメリカのレッドウッド国立・州立公園は1980年、国連のユネスコから、世界自然遺産に登録されました。この公園は、海面から海抜950メートルの範囲に広がっており、2,500ミリ以上の年間降雨量と年間を通して湿潤な海洋性気候のため、多彩な自然生態を作り出しています。ここで記録されている植生の種類は856種に上り、このうち699種が原生のもの。中心的な植生はセコイアです。


一方、棲蘭山のヒノキ原始林区は、中海抜の台湾の山地にあり、峰が高く、谷は深く、十分な雨霧のため、孤島のように閉鎖した生態環境を形成しており、また、温暖湿潤な気候が、このエリアの植物が互いに競い合って生存していく環境を作り出しています。このため、台湾のヒノキ林は、タイワンツガ、ランダイスギ、タイワンスギ、タカネゴヨウといった大型の針葉樹が混生し、植物の種類が豊富になっています。統計によると、このエリアには、維管束植物が1,009種あり、このうち、氷河期から残る裸子植物は14種、レッドウッド国立・州立公園に比べて、種類が豊富で希少なほか、森林の様子もより壮観といえます。


選出理由

棲蘭山ヒノキ林は、中高海抜の山地に位置しており、峰が高く、谷は深く、十分な雨霧といった環境が、孤島のように閉鎖した生態環境を形成しているため、ヒノキ林帯には、チュウゴクイチイやタイワンスギ、ランダイスギ、タイワンイヌガヤなど、希少な裸子植物も生育しています。これらは、第三紀北極植物の遺存種で、長期間孤立した環境で変化したことにより、台湾固有の種類となりました。これら固有の針葉樹類の希少裸子植物群は、数千万年から1億年を経て変化したもので、「生きた化石」といえます。生態の進化における価値が、世界遺産登録基準第8項に当てはまります。


棲蘭山エリアの雨量は年平均5,000ミリに達した記録があり、この山地は1年のうち250日ほどが雨霧に覆われています。このように年中雨霧でおおわれている林地を植物学では、「雲霧林帯」といいます。このエリアの自然環境生態系は、学術界で「暖温帯山地針葉樹林群系」と呼ばれます。植物学ではこの群系を針葉樹混生群落、ヒノキ林群落の二つに大きく分けています。このうち、ヒノキ林群落は、海抜1,600-2,600メートルに分布し、温暖で湿潤、多雨のため、非常に多様な植物群落を形成しています。種の多様性といった点では非常に雑多で、中には、台湾では絶滅の危機に瀕していたり、貴重な種の多くが生息しており、この希少な針葉樹林で、タイワンツキノワグマやタイワンカモシカ、キョンといった大型の有蹄類が確認されています。ここは、台湾の希少野生生物の楽園となっており、研究と保護の対象として非常に価値ある点が、世界遺産登録基準第10項に当てはまります。