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手書き映画看板の達人 | 顔振発

  • 日付:2023-08-30
手書き映画看板の達人 | 顔振発

顔振発はこのかた、映画スターに会ったことはほとんどありませんが、その筆により描き出された映画ポスターは数知れず。自身でも何枚描いたかはとうに覚えていないほどです。この数十年、顔振発ほぼ毎日、小さな写真とペンキを手に、台湾南部・台南の映画館「全美戯院」向かいの歩道で作画を続けています。

 

デジタルプリントやテクノロジーがまだ発達していなかった時代、映画を宣伝したい映画会社にとって、最善の方法が優れた腕を持つ絵師にポスターを描いてもらうことでした。顔振発は今では、台湾に残る数少ない手書きの映画看板絵師となりました。

 

顔振発は1953年5月1日、台南県下営郷(現在の台南市下営区)に生まれ、18歳のときに師匠について学び始めました。人生のほとんどの時間、絵を描いてきた顔振発ですが、手書き看板の仕事に就いたばかりのころは、伝統的な考えを持つ父親に強く反対されたものの、諦めなかったと語ります。顔振発はスピーディーな作画で、映画看板の本質を的確につかみます。全盛期だった1970年代には、一カ月で200枚以上もの大型映画看板を描くこともあり、台湾で最も多く描いた絵師といえます。

 

その後、デジタルプリントやデジタルサイネージが広がり、手書き看板は徐々に衰退。顔振発も一時、失意に暮れ、生計を維持することも難しくなりました。しかし幸い、台南今日全美戯院の大きな支えを得て、全美戯院で顔振発の手書き看板が掲げ続けられることになり、伝統が守られています。

 

顔振発は全美戯院の映画看板を絵の制作から設置まで、全て担当しています。建物の高さほどもある大型看板は、3尺(1尺=30.3cm)平方のキャンバスを6枚合わせて出来上がります。

 

映画「ズートピア」の看板作成時、顔振発が集中して取り組む姿がアメリカのソーシャルサイト「Reddit(レディット)」で取り上げられ、「台湾の映画館で全ての映画ポスターを手書きする」として紹介されました。手書き看板が消えて数十年経っていた米国では驚きと賞賛がやまず、ネットユーザーの間で話題になりました。

 

イタリアの老舗ブランド「グッチ(GUCCI)」も顔振発とコラボし、2018年、世界で6カ所目のグッチアートウオール(GUCCI Art Wall)が台湾の台北市永康街に出現。その精緻な作画には、ビジュアルを担当したアーティストのアレックス・メリー氏が賞賛のコメントを贈っています。

 

2019年には、レコード会社からのオファーも受けています。イギリスのロックバンド「コールドプレイ」の新アルバム「エヴリデイ・ライフ(Everyday Life)」のレトロなジャケットを台北市西門町の映画館街にある壁面に描き、人気スポットになりました。

 

インターネットの拡大で打撃を受ける映画業界。顔振発の仕事が少なくなり、収入も減って生活に影響することを心配した映画館オーナーは、顔振発に講習を開いて生徒を受け入れることを提案しました。加えて、数年前にはもう一人の絵師がこの仕事を辞めたこともあり、顔振発は台湾の手書き映画看板が自身の視力低下に伴って途絶えてしまうことを懸念しました。この伝統芸術を残していくため、顔振発は全美戯院と共同で、「全美今日戯院手書き看板文創ワークショップ」を開催。この講習は人気となり、受講者数はこの数年で累計数百人になりました。中には、日本や香港、シンガポールなど海外から学びに訪れる人もいます。

 

長年の作画は、顔振発の視力に大きなダメージを与えていました。数年前、医師が顔振発の網膜に深刻な損傷があると診断。映画館がサポートし、左目は助かったものの、右目はほぼ見えない状態になりました。それでも顔振発は、見える限り描き続けています。