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図書館の母 | 王秋華

  • 日付:2020-10-30
図書館の母 | 王秋華

台湾の著名な女性建築家である王秋華は、「図書館の母」とたたえられています。数多くの図書館を設計しただけでなく、台湾の現代的な大学図書館建設を推進した先駆者でもあるためです。


王秋華は、台湾では戦後第一世代の建築家で、幼少期は父の仕事や戦争の影響で、武漢、南京、重慶を転々としました。1946年に米国に渡り、ワシントン大学建築学科、コロンビア大学大学院建築・都市計画学科で学びました。


王秋華がコロンビア大学大学院建築学科で学んでいた時の指導教官、パーシバル・グッドマン(Percival Goodman)は、社会学者で都市理論家、芸術家、建築家であり、現代ユダヤ教会の改革者としても有名な人でした。王秋華は卒業後、グッドマン事務所に入り、1975年には共同経営者となり、ユダヤ教会のメイン設計に数多く携わります。こうしたことから、王秋華の作品には、人道的配慮や周辺環境への細かな気配りがあり、さらには大自然を尊重するものとなっています。


1979年、王秋華は台湾に戻り、台北工業専科学校(現台北科技大学)と、淡江大学建築学科で教鞭(きょうべん)を執ります。1981年、建築家の潘冀と合同事務所を立ち上げ、現代的な図書館を多数設計。その設計は、建築と人文環境の融合を特に重視したものでした。王秋華がまず設計したのは、国立中央図書館(現国家図書館)の内装と設備で、その後、中原大学の図書館を設計。この図書館は、台湾で初めての現代的な図書館でした。1980年代より以前、台湾では開架式を採用した図書館はありませんでした。


王秋華の図書館設計は、利用者のあらゆるニーズに対応するもので、限りあるスペースに、自習室やホール、庭園、オフィスなど、各種用途に適した空間を作り出すことを得意としています。1980年代初頭、台湾の大学には十分な資源がなく、建築物には多くの工夫が必要でした。王秋華は自ら、図書館内の備品の設計も行いました。


王秋華はこのほか、総統府直属の学術研究機関である中央研究院の米国研究センター(現欧米研究所図書館)や自宅である「雪舎」、中原大学張静愚紀念図書館などを設計。中原大学張静愚紀念図書館は、台湾近代建築の代表といわれています。


王秋華はかつて、建築について、「複雑な構築環境に不可欠なもので、人の感情と社会的意義に満ち、形式と機能、美観と実用性を超越するもの」と形容しています。


事務所開設から35年が経ち、台湾の建築界に多大な貢献をもたらしたことが評価され、王秋華は2019年、94歳という高齢で、芸術分野の台湾最高栄誉である第21回国家文芸奨を受賞。建築分野で受賞した初の女性建築家となりました。